医療DXについて

IT、ICTに続き、最近では「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉をよくお聞きになると思います。ビジネスでは当たり前の話ですが、こと医療になると話は変わってきます。日本の医療に関しては他産業、他国に比べて正直10年は遅れているかも知れないなと思うほど、お粗末なのが正直な感想です。

医療という世界の特殊性

腕組をする医師

元々医療は人の関わる部分が非常に多い職種でした。労働集約産業と言っても過言ではないでしょう。こう申しますと「いや今は電子カルテと各医療機器が連携しているし、限られた範囲だがデータ共有が出来ているよ」という反論もあるでしょう。総合病院レベルならかなり進んでいるところもあります。

しかしクリニックレベルで考えると、部分部分IT化はしているが連携が不充分だとか、まだ紙カルテという医療機関も残っています。紙のメリットは充分感じていますので時代遅れとは言いませんが、今後の医療データ活用という面を考えると存在価値がなくなってくるでしょう。このようにクリニックレベルではまだまだ遅れていますし、各システムが分断化されて使い勝手がいいとは到底言えないような仕組みを使っているのが現状です。

実例を挙げますと、ある電子カルテメーカーさん。カルテ自体の使い勝手も悪く、改善をお願いしても検討しますの一点張り。価格も高いですし、メンテナンス費用である保守料金がまたバカ高い(笑)。競合が少ないので殿様商売ですし、仲介する医薬品卸もリベートの多いメーカーを優先して勧めてきます。電子カルテは一度そのメーカーで使い出すと、途中で変更するのは結構つらいのです。こういう仕組みもユーザーからは疑問です。

しかも普及すればするほど、性能面も向上し使いやすくなったり安価になれば良いのですが、ここも医療は特殊です。一般ビジネスと比べれば使う先は少ないのはわかりますが、モデルチェンジまでは機能面ではさほどアップはしません。また価格も高止まりというのが業界の常識みたいになっています。これでは効率的で良い医療には程遠いですよね。

また故障続きの医療機器のあるメーカーも、競合が少ないのをいいことに非常に対応が遅く悪い。止む無く上司に対応してもらおうと連絡すると、担当者以上に悪いということも結構あります。特殊なケースだったのかも知れませんが、きちんとしてもらうのに1年以上かかった事もありました。

いろいろお話してきましたが、医療業界は様々な意味で特殊な世界だということです。

効率の良い体制を創る

医療は製造工場のように完全なオートメーション化は難しい。突き詰めて申し上げれば、あえて人間的な触れ合いを残しておいた方が良い世界だからです。来院して受付から診察、検査、お薬をもらうまでが全てロボットだったらと想像すると、ちょっと寂しいのではないでしょうか?

受付、看護師さん、医師に訴えを聞いてもらって、共感してもらい、的確な診療を提供して欲しいと思っている方は多いと思います。もちろん早く終わりたいので、ロボットでも大丈夫という方も見えると思いますが、多くの方はどこかで少しでもヒューマンタッチを欲しているのではないでしょうか?私も内視鏡検査を初めて受けた時、看護師さんに優しく背中をさすられたらホッと安心した思い出があります。

これからの効率的で的確な医療は、機械に任せても良い部分は徹底して任せて効率化を図る。例えば受付はスマホをかざして自動チェックイン、問診はweb問診で事前に終了、会計も自動チェックアウト。費用はスマホから引き落とされます。

そして肝心の診察は、しっかり医師と向き合って話をする。お薬も薬剤師と向き合ってよく理解する。スタッフはチェックイン・アウトに費やしていた時間とエネルギーを患者さんに向き合うことに使えます。医師も同様ですね。こういうスタイルがこれからのクリニックだと私は思っています。

先生方はクリニックの現状をよく把握した上で、こういう仕組みを創っていかなくてはなりません。一度に全て出来ませんし、スタッフともよく連携しながら進めていかなくてはなりませんから。また、あまり焦って良くない製品を採用しても本末転倒ですので、よく情報収集をして業者ともよく相談し、実際にデモもしながら検討していきましょう。正直申し上げたような機器はまだ十分に市販されていませんので、将来を見据えながらになるでしょう。

基本システム、何から導入すればいいの?

各クリニックさんの状況は千差万別ですので、全てに当てはまらないことはご理解頂いた上でお話致します。

web予約

「まだ電話予約だけど、特に問題はないんと思うよ 」

こう仰る先生はまだ多い?のかも知れません。従来の電話で予約を取る方法を採用している先も多いですし、直接早めに行って予約ノートに氏名を記入する医療機関もあります。今時?とびっくりしますが、私の住む地域でも実在しています・・・。
「特に問題はない」のかも知れませんが、患者さんとスタッフ双方が明らかに非効率ですし、問題がないと思っているのは先生だけかも知れません。

時代や環境は常に変化し、患者さんの考え方も変わってきます。ビジネスの現場では、1年前の方針はもはや使い物にならないことが多いもの。いろんな事がどんどん変化しており、時間に関する感覚もそのひとつです。

仕事をしている方はもちろん、主婦もパートや習い事たお迎えなどで大忙しです。そして子ども達も塾や習い事などで遊ぶ暇がないほどです。じゃ高齢者は暇かというと忙しいおじいちゃんおばあちゃんはたくさんいますよ。つまり社会全体が忙しくなっているのです。ここを見逃すとニーズを読み誤ります。

そういう感覚の方からすれば、冒頭のようなクリニックさんは避けるのはないでしょうか? web予約は慣れると便利ですので、もう戻れないんですね。まだ導入していないクリニックさんは、一度検討してみて欲しいアイテムです。

web予約のメリットは、簡単で手軽ということです。予約可能な日時もわかりますし(機種や設定で異なります)、仕事中でもあっという間に予約可能、また今の混雑状況も一目瞭然。キャンセルも自分で行えます。デメリットは・・・デジタルが苦手な方や高齢の方以外(今の高齢者はかなり使いこなしています)はほとんどないと思います。

web予約は多くのメーカーから様々な特徴を持った製品が出ていて、大きく分けるとクラウド型とサーバー型です。この点に関しては一長一短ありますが、それよりも実情に合っているか、また操作性は良いか(患者さん、スタッフ双方)などで選択すれば良いでしょう。(ちなみに価格差はほとんどないように感じます)

web問診

web予約を導入したら、導入時期は遅れても結構ですので出来ればセットで検討して欲しいアイテムです。従来の紙の問診票をお使いのクリニックさんはまだまだ多いと思いますので、一度受付から問診記入までの行程を患者さん目線で振り返ってみましょう。

電話かwebかは別として、来院したら真っ先に受付を目指します。そこで氏名確認、web予約した番号などを提示し診察券や保険証などを預けます。そして事務員さんから紙の問診票を渡されて、座って記入します。これが一般的なパターンですね。
来院した直後に問診票を記入しますので、急いで来た患者さんは呼吸を整えながら、また子ども連れのお母さんは急いで記入するでしょう。
患者さんが多くて待合が満杯、座るどころか立つ場所を探さないとという場合もあるかも知れません。つまり、クリニックに来院後に問診票を書くという行為は、正確に記入出来ない可能性があるということなんです。

問診票の役割は、患者さんが現在抱えている症状や不安なところを知る事です。また薬のアレルギーなどを把握する為です。新患さんであれば、最初の大切な情報収集なのですが、意外と大事にされていないのが現状のように感じます。ゆっくりと正確に情報提供して欲しいですよね。

そのような状況にする為に、web問診を活用します。web上で記入出来ますので、自宅でゆっくり記入出来ますし、記入漏れなども必然的に少なくなるでしょう。紙ベースですとA41枚程度しか記入出来ませんが、web問診ならボリュームを増やしても簡単ですし、自由にカスタマイズ可能です。

また医療事務員の仕事を大幅に減らすことが出来ますので、業務の効率化に貢献してくれるでしょう。個人的には必須アイテムなんじゃないかと考えています。

web問診も数社が発売しており、機能面や価格はほぼ同じだと思います。あとは使い勝手と画面の好みで決められると良いでしょう。

電子カルテ

書こうかどうか迷いましたが、やはり基幹となるシステムですので簡単に触れておきますね。

迷った原因は、選択基準が多いのと好みの要素が強いのでボリューミーになってしまうかなと心配になったからです(笑)。
2017年の厚生労働省の発表によりますと、一般診療所の電子カルテの普及率は「41.6%」。統計上の数値ですし、この数字を高いとみるか、低いと感じるかは別として、現状はこの程度ということです。

当ホームページをご覧頂いている方は電子カルテを導入済みの方だと想像しますので、電子カルテ推進派として進めて参ります。ビジネスマンの手帳はデジタルかアナログかという議論同様、医療の紙カルテにも当然ながらメリットはあります。私は電子カルテ推進派ですが、最適解はデジタルとアナログの融合だと思っており、現実に電子メインだけど紙も補完的に使っているという先生もみえます。ただ基本はデジタルにすべきですので、新規開業の先生はどこのカルテにするかを考えましょう。

電子カルテメーカーさんは結構多く、それぞれメリット・デメリットがありますのでよく吟味して選択する必要があります。ただ個人的には、デジカル(M3)に興味があります。機能と価格が魅力ですし、そのうえ冒頭で申し上げた「近未来のクリニック像」(=スマホを用いて、自動チェックイン&アウト)を提案しているところに魅力を感じます。

電子カルテは先生が一番関わるアイテムですので、検討してみて下さい。

まとめ

基本となるシステム、アイテムを紹介させて頂きました。この3つを揃えてもらえればイイ線いっていると思いますので、一度検討して頂きたいと思います。

クリニックの経営の将来戦略や運営上の未来構想を考えるにあたって、忘れてはならない要素は何だと思いますか?それは、『 患者さん 』です。当たり前の話ですが、ここがいつの間にか抜け落ちている先生が意外と多いのです。患者さんにとって、現状何が最適解なのかを考えて考えて、時には患者さんに教えてもらって実践していかなくてはなりません。

患者さんの満足度を最大値に出来るよう、そして働くスタッフも満足感がMAXになる様にDX化を検討していって欲しいと思います。